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鋼橋塗装塗り替え工設計の設計要点

鋼橋塗装塗り替え工設計の設計要点

我が国のインフラ持続可能性は今、深刻な危機に直面しています。橋長2m以上の道路橋約70万橋のうち、建設後50年を経過する橋梁の割合は、2012年の16%から、2022年には40%、そして2032年には65%(約26万橋)へと急増します。

統計によれば、鋼橋架替え理由の50%が「腐食」が原因です。

この事実は、塗装塗り替え設計が単なる表面の化粧直しではなく、橋梁の耐荷力と構造安全性を担保する「構造保全設計」そのものであることを示唆しおり、設計段階での適切な防食戦略が、将来的な架替えという莫大な社会的損失を回避する手段と言えるでしょう。

そのため、まずは一般的な塗装塗り替えについて設計する際に留意・考慮する事項などについて記載します。

 

腐食特性の把握:部位別劣化要因と点検の勘所

設計の質は、腐食の実態把握の精度に正比例すると言われています。

鋼橋の腐食は、構造形式や部位によって進行速度が劇的に異なる。これは、水・塩分・泥の「滞留時間」の差に起因するものです。

重点点検箇所の特定とリスク要因

点検及び損傷評価において、以下の部位を「高リスク箇所」として重点的に調査、診断が必要です。

高リスク箇所

原因

伸縮装置本体およびその下部

伸縮装置の損傷により橋面からの漏水が発生し、主桁、対傾構、横構、伸縮装置本体などの部材が常に湿潤環境に置かれ、腐食が進行する。 

桁端部・支承部

橋座面や支承本体に砂やゴミが堆積することで元々風通しが悪い状態も相まって、湿潤環境が長期化し、腐食が進行する。 

下フランジ下面・ウェッブ(腹板)

結露や湿気の滞留が主な要因であり、特に添接部付近は隙間腐食のリスクも伴う。 

高力ボルト・リベット継手部

(各部材の接続部)

複雑な形状により、腐食の起点となりやすい。 



※出典:橋梁定期点検要領 令和67月  国土交通省 道路局 国道・技術課より抜粋

 

 

耐久性の相対比較と構造的要因

主桁ウェブ外面の耐久性を「10」とした場合の相対比が以下の内容です。

  • 構造形式での比較:箱桁10、鈑桁9、トラス桁8
  • 部位での比較:主桁ウェブ外面10、下フランジ下面5、添接部5、桁端部5

ここで注目すべきは、トラス桁(8)が箱桁(10)より低い点です。トラス構造は部材が複雑に交差し、エッジ部や継手部が多いため、水や塩分が残存しやすく、防食上の弱点となりやすい。また、桁端部等の耐久性が外面の半分(5)しかない事実は、これらの特定部位に対する「部分塗り替え」や「防食仕様の強化」がLCC最適化において不可欠な設計判断であることを示しています。

※土木学会学術講演会資料「鋼橋主桁部材における塗膜の劣化予測に関する研究」より抜粋



※出典:橋梁定期点検要領 令和67月  国土交通省 道路局 国道・技術課より抜粋

 

旧塗膜の理解と塗装系変遷の分析

塗り替え設計の成否は、既存の「旧塗膜」をどう扱うかにかかっています。

旧塗膜の組成は、新設塗装系との付着性だけでなく、廃棄物処理コストや施工の安全性に決定的な影響を及ぼすからです。

塗装の耐用年数と目的

塗装種類

耐用年数と目的

一般塗装系

期待耐用年数は概ね15年未満です。主に一般的な大気環境(市街地や住宅など)にある建物や鉄骨に適用され、美観の維持と軽度の保護を目的とします。 

重防食塗装系

 期待耐用年数は30年以上です。海上・海岸部、化学プラント、橋梁など、塩害や化学薬品、高湿度にさらされる過酷な環境で鉄を完全に守り、構造物を長寿命化させます。  

 

塗装系の変遷と技術的課題

1960年代以降の変遷を整理すると、以下の課題が抽出されます。

塗装系

技術的課題など

A系(フタル酸樹脂系)

1960年代から主流。鉛系錆止め塗料を含み、防食性能は限定的である。 

B系(塩化ゴム系)

1970年代から80年代に多用。MIO(雲母状酸化鉄)を配合して遮断性を高めているが、可塑剤としてPCB(ポリ塩化ビフェニル)を含有しているケースがあり、解体・剥離・処分時の厳格な管理が求められる。 

C系(重防食塗装系)

1990年代以降、主にジンクリッチペイント、エポキシ樹脂、フッ素樹脂塗料を組み合わせている。 

 

環境管理としての塗り替え

現在、耐久性の低いA系・B系の橋梁が依然として全体の約50%を占めており、これらを長寿命なC系(重防食塗装)へ移行させることは、LCC低減のみならず、旧塗膜に含まれる鉛、クロム、PCBといった有害物質に適切に対処する「環境管理プロジェクト」としての側面を持ちます。

しかし、初期コストが増加するため、「将来のリスク低減」として設計者がどう合理的に説明できるかが重要です。

 

塗膜劣化の評価と塗り替え時期の判定基準

塗り替え時期の判定においては、塗装系の防食原理に合わせた評価指標の使い分けが必須と言えます。

塗装系

判定基準

一般塗装系(A系・B系等)

さび、はがれ、変退色、われ、膨れで評価する。 
JIS K 5600
に基づき、さび面積8.0%以上(評価4)を「機能喪失」の閾値とする。 

重防食塗装系(Rc系)

判定の主眼は「さび」ではなく、「白亜化(チョーキング)」と「膜厚の消耗程度」にある。これは、上・中塗りの層を維持することで、最下層のジンクリッチペイント(犠牲防食層)を保護し続ける必要があるからである。 

 

判定フロー

判定フロー

内容

評価1(当面不要)

塗膜は健全 

評価2(数年後に計画)

防食機能は維持しているが、チョーキングが進行

評価3(早期検討)

塗膜の一部が機能喪失。防食下地が健全な内に塗替える

評価4(速やかに実施)

防食下地が消失し、鋼材に深刻な腐食

重防食塗装系では、鋼材に錆が出る前の「早期検討」段階で塗り替えを決定することが、構造安全性を高く維持するために必要です。

 

塗り替え塗装系の選定プロセスと設計上の留意点

『鋼道路橋防食便覧(H26.3)』に基づき、素地調整(ケレン)と目標耐用年数を軸に塗装系を選定します。素地調整(そじちょうせい)とは、塗装をする前に対象物の表面を最も適した状態に整える下地処理工程のことであり、下表に示す塗装系により素地調整のレベルが変わります。

 

塗り替え塗装系のスペック比較

塗装系

素地調整

主な塗料構成

設計上の適用・制約

Rc-I

1種(ブラスト)

有機ジンク+変性エポキシ

+ふっ素

基本塗装系。原則スプレー施工。

最高の耐久性を求める場合に適用。

Rc-

2種(動力工具)

有機ジンク+変性エポキシ

+ふっ素

旧塗膜(B/b系等)でジンク層から剥離が生じ、かつブラストが不可能な場合に適用。

Rc-

3種(動力工具)

変性エポキシ+ふっ素

旧塗膜を残す仕様。1種・2種が困難な現場用。耐久性はRc-Iに劣る。

Ra-

3種

鉛・クロムフリー錆止め

+フタル酸

「長寿命化を必要としない」または「余寿命が約20年以内」の橋梁に限定。

設計者は、ブラスト施工(1種ケレン)の可否が防食性能を決定づけることを認識する必要があります。現場の制約(吊り足場の耐荷重、周辺環境への粉塵対策)を精査し、可能な限りRc-Iを選択することが、長期的なLCC最適化に繋がるのです。

 

素地調整と環境・安全配慮設計

塗装の耐久性の8割は素地調整で決まるといっても過言ではなく、特にジンクリッチペイントを採用する場合、鋼材面との直接接触による「犠牲防食作用」を最大化させるためには、ISO Sa2.5(ブラスト)水準の清浄度が不可欠です。

有害物質対策と塗料の選定

項目

内容

環境安全

旧塗膜の鉛・クロム・PCB対策として、湿式による剥離方法や吸引装置付き工具の採用を設計に盛り込む。 

弱溶剤形塗料の採用

旧塗膜を残して塗り替える場合、旧塗膜を侵しにくい「弱溶剤形塗料」を選択する。これは、溶解力の強いトルエン、キシレン、アルコール類を含まず、第3種有機溶剤を主成分とするものである。 

 

施工管理の要点

項目

内容

塗装間隔

標準温度20℃を基準とし、素地調整後4時間以内、塗り重ね110日以内の規定を厳守させる。 

目標水準

動力工具処理の場合はISO St3を目標とし、鋼材の黒皮や錆を完全に除去する。 

 

 

総括:持続可能な橋梁保全のための設計者の責務


本文で詳述した各要素は、すべて「性能曲線」を高い水準で維持するためのパズルの一部です。性能曲線(防食・構造安全)を俯瞰すれば、腐食発生後に反応する「事後対応」では、構造安全性能が「限界(架替え閾値)」に達するリスクが極めて高くなります。

適切な時期にRc-I等の高度な塗装系を選択し、予防的な介入を行うことで、この性能曲線を高い位置で安定させることが設計者の責務です。

現場固有の環境(飛来塩分、湿潤条件)と構造的特性を鋭敏に読み取り、『防食便覧』等の最新基準を遵守した設計を行うこと、そのプロフェッショナルとしての的確な判断こそが、次世代へ安全なインフラを引き継ぐために必要なスキルと言えるでしょう。

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