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改正建設業法の概要|変更点や2025年問題への対応、事業者がすべきこととは

改正建設業法の概要|変更点や2025年問題への対応、事業者がすべきこととは

2024年6月、建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律が成立し、順次施行されています。この改正は建設業の担い手確保を目的としており、労働者の処遇改善や働き方改革の推進、生産性向上に向けた重要な取り組みです。


本記事では、改正建設業法の概要や変更点、そして事業者が取るべき対応について解説します。

改正建設業法とは
改正建設業法とは

建設業法の一部が改正され、2024年から2025年にかけて順次施行されています。この改正は建設業における労働者の処遇改善、働き方改革、生産性向上を柱としており、特に労務費の適正化や資材高騰時の契約変更、ICTを活用した現場管理の効率化などが盛り込まれています。

法改正により、建設業界の長時間労働の是正や人材確保につながることが期待されています。

建設業法の概要

建設業法は、建設業を営む者の資質の向上、建設工事の請負契約の適正化等を図ることにより、建設工事の適正な施工を確保し、発注者を保護するとともに、建設業の健全な発達を促進することを目的とした法律です。建設業の許可制度や技術者の配置義務、請負契約の適正化などを定めています。

今回の改正は、建設業が「地域の守り手」としての役割を将来にわたって果たしていけるよう、労働者の処遇改善・働き方改革・生産性向上を促すことを目的としています。

公布日と施行日

改正建設業法は2024年6月14日に公布され、以下のように段階的に施行されます。

  • 一部の規定:2024年9月1日施行(公布から3ヶ月以内)
  • 一部の規定:2024年12月13日施行(公布から6ヶ月以内)
  • その他の規定:公布から1年6ヶ月を超えない範囲内において政令で定める日(2025年中に施行予定)

出典:国土交通省「建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について」

入契法の概要

入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)は、公共工事の入札・契約について、透明性の確保、公正な競争の促進、適正な施工の確保、不正行為の排除の徹底を図ることを目的とした法律です。

 

今回の改正では、公共工事発注者の施工体制台帳の提出義務の合理化なども含まれています。また、工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象の発生により、受注者が請負契約の内容の変更について協議を申し出たときは、各省各庁の長等は誠実に当該協議に応じることが義務付けられました。

改正建設業法で変更された項目
改正建設業法で変更された項目

改正建設業法では、大きく分けて「労働者の待遇・処遇の改善」「労働環境や現場効率化の改善」「資材高騰による労務費のしわ寄せ防止」の3つの観点から改正が行われています。

 

各項目について詳しく見ていくと、建設業界の慢性的な課題を解決するための具体的な施策が盛り込まれていることがわかります。これらの改正点を正しく理解し、対応することが、建設業者にとって今後の事業継続に不可欠です。

労働者の待遇・処遇の改善

改正建設業法では、建設業の担い手確保に向けて労働者の待遇・処遇改善が重視されています。労働者の知識・技能に応じた適正賃金の支払いが努力義務化され、中央建設業審議会による標準労務費の作成・勧告制度が新設されました。また、著しく低い材料費等での見積り提出や変更依頼の禁止、原価割れ契約の禁止など、労働者の処遇を守るための規定が強化されています。

賃金項目の見直し

建設業者は、労働者が有する知識・技能その他の能力についての公正な評価に基づいて適正な賃金を支払うことなど、労働者の適切な処遇を確保するための措置を効果的に実施するよう努めることが義務化されました。また、中央建設業審議会は建設工事の労務費に関する基準(標準労務費)を作成し、その実施を勧告する権限が付与されました。

これにより、技能者の適正な賃金水準が明確化され、労務費の削減を防ぐ効果が期待されています。

出典:「建設業法及び公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律の一部を改正する法律」(令和6年法律第49号)

材料費や受注者に対する財的保護規定

材料費等記載見積書に記載する材料費等の額は、当該建設工事を施工するために通常必要と認められる材料費等の額を著しく下回るものであってはならないとされました。また、建設工事の注文者側も、材料費等記載見積書の交付を受けた後、著しく低い材料費等の額への変更を求めることが禁止されます。

さらに、建設業者は正当な理由がある場合を除き、建設工事を施工するために通常必要と認められる原価に満たない金額の請負契約を締結してはならないものとされました。いわゆる「原価割れ契約」が禁止され、適正な材料費および労務費の確保が図られます。

労働環境や現場効率化の改善

働き方改革と生産性向上の観点から、労働環境や現場効率化に関する改正も行われました。受注者側にも著しく短い工期での契約締結が禁止されたほか、ICTを活用した現場管理の効率化が努力義務化されています。また、技術者の専任義務についても合理化され、一定条件下で複数現場の兼務が可能になるなど、人材不足に対応した柔軟な制度設計が導入されました。

受注者による不当な工期契約の禁止

従来は注文者のみに禁止されていた「著しく短い工期」による契約締結が、受注者側にも禁止されるようになりました。これにより、現場労働者の過重労働を防止し、適正な工期設定を促す効果が期待されています。いわゆる「工期ダンピング」と呼ばれる行為は、長時間労働や休日出勤の原因となり、労働者の健康や安全に悪影響を及ぼすことから、発注者側だけでなく受注者側も含めた禁止措置が講じられました。

現場管理の努力義務化

特定建設業者は、建設工事の適正な施工を確保するために必要な情報通信技術の活用に関し、必要な措置を講じなければならないとされました。また、元請事業者は、下請負人が情報通信技術の活用に関する措置を講じることができるよう、下請負人の指導に努めることとされています。この改正により、ITツールやデジタル技術を活用した効率的な現場管理が促進され、生産性向上につながることが期待されています。

工事発注者による施工台帳提出義務化の合理化

公共工事の受注者には、施工体制台帳を作成し、その写しを発注者に提出することが義務付けられていますが、発注者が情報通信技術を利用する方法によって工事現場の施工体制を確認できる措置を講じている場合には、台帳の提出義務が免除されるようになりました。

また、現場技術者の専任義務についても、ICTの活用により合理化されます。工事現場の状況確認などの職務をICTの利用(遠隔通信など)で合理的に行える場合、請負代金が1億円未満(建築一式工事は2億円未満)の工事については、2現場まで兼務することが可能になります。

資材高騰による労務費のしわ寄せ防止

資材価格の高騰が労務費を圧迫する問題に対応するため、請負代金の変更方法を契約書の記載事項として義務化しました。また、資材高騰のおそれがある場合は受注者から注文者へのリスク情報提供が義務付けられ、実際に高騰が発生した際には請負代金の変更協議を申し出ることができます。注文者は協議に誠実に応じる努力義務を負い、公共工事では協議応対が義務化されました。

発注者と受注者双方のリスク情報共有義務化

建設工事を請け負う建設業者は、主要な資材の供給の著しい減少や資材価格の高騰など、工期または請負代金の額に影響を及ぼす事象が発生するおそれがあると認めるときは、請負契約を締結するまでに、注文者に対してその旨と状況把握に必要な情報を通知しなければならないとされました。改正によって、資材高騰などのリスクを事前に共有し、後の契約変更協議をスムーズに行う基盤が整備されます。

資材高騰による変更協議への努力義務化

請負代金を変更する際の金額の算定方法を、建設工事の請負契約に記載することが義務化されました。また、リスク情報を注文者に通知した建設業者が、実際に当該事象が発生した場合に変更協議を申し出た際には、注文者は正当な理由がある場合を除き、誠実に協議に応じるよう努めなければなりません。

公共工事については、協議への対応が努力義務ではなく義務となっており、各省各庁の長等は誠実に協議に応じることが求められます。資材高騰時の適切な価格転嫁が促進され、労務費へのしわ寄せが防止されることが期待されています。

改正建設業法に違反した場合の処分

改正建設業法に違反した場合、事業者には様々な処分が科される可能性があります。特に原価割れ契約の禁止や著しく短い工期での契約締結禁止などの新たな規制に違反すると、営業停止や許可取消しといった厳しい措置が取られることがあります。また、比較的軽微な違反でも指示・指導が行われ、違反内容によっては勧告や公表による社会的信用の低下も懸念されます。

営業停止

建設業法の規定に違反した場合、国土交通大臣または都道府県知事は、建設業者に対して営業の全部または一部の停止を命じることがあります。営業停止期間は違反の内容によって異なりますが、重大な違反の場合は最長で1年間となることがあります。例えば、不正な手段による建設業許可の取得や、技術者の専任義務違反などが該当します。

許可取り消し

欠格事由に該当した場合や、営業停止処分に違反した場合などには、建設業の許可が取り消されることがあります。許可取消を受けると、原則として5年間は新たに建設業の許可を受けることができません。これは建設業者にとって事業継続が困難になる重大な処分であり、法令遵守の徹底が求められます。

指示・指導

比較的軽微な違反の場合には、必要な指示や指導が行われることがあります。例えば、著しく低い材料費等の見積りを依頼した発注者に対しては、国土交通大臣または都道府県知事による勧告および公表の対象となります。公表されることで社会的信用が低下する恐れがあるため、各事業者は法令遵守を徹底することが重要です。

 

現行建設業法を改正した背景
現行建設業法を改正した背景

建設業法の改正には、建設業界が直面するさまざまな課題が背景にあります。不当な契約や価格設定の横行、不適切な工期設定による現場環境の悪化、慢性的な人手不足、そして2024年問題と2025年問題の顕在化など、建設業の持続可能性を脅かす要因に対応するために、今回の法改正が行われました。

不当な契約や価格設定の横行

建設業界では、不当に低い請負代金による契約や、材料費の高騰分が適切に請負代金に反映されないといった問題が長期にわたって存在してきました。こうした状況は建設業の労働者の賃金を圧迫し、人材確保を困難にする要因でした。特に下請業者は元請からの発注に依存しているケースが多く、適正な価格での契約が困難な状況が続いていました。

不適切な工期設定による現場環境の悪化

著しく短い工期設定(工期ダンピング)によって、現場の労働者が長時間労働を強いられる実態がありました。国土交通省の調査によれば、工期不足への対応として、休日出勤や早出・残業など、労働者に負担を強いる対応が4割を超えていることが明らかになっています。

 

このような状況は、建設業のイメージ低下や若手の入職意欲減退につながり、業界全体の人材不足を加速させる要因といえるでしょう。

建設業全体の人手不足に対する順応化

建設業界では高齢化が進み、若手入職者も減少していることから、深刻な人手不足に直面しています。2016年比で施工管理の求人が5.04倍、転職者数が3.84倍に増えており、人材の確保・定着が業界全体の課題となっています。特に技術者不足は深刻で、現場管理や施工管理を担当する人材の獲得競争が激化しています。

こうした状況を受け、ICT技術の活用による現場管理の効率化など、少ない人員でも質の高い施工を可能にするための施策が求められていました。今回の法改正では、技術者の専任規制の合理化などを通じて、この課題に対応しています。

2024年問題と2025年問題の顕在化

2024年4月より、働き方改革関連法・改正労働基準法に伴う時間外労働(残業)の規制が建設業にも適用される「2024年問題」が発生しました。また、建設業許可の更新時期が5年に一度集中する「2025年問題」も控えています。2024年問題では、建設業においても時間外労働の上限規制(年間960時間)が適用され、労働時間管理の厳格化が求められています。

こうした状況下で、建設業の持続可能性を高めるため、労働環境の改善や生産性向上が急務となっていました。今回の法改正は、建設業全体の課題に対応するための重要な施策と位置づけられています。

改正建設業法施行後に事業者がすべき対応
改正建設業法施行後に事業者がすべき対応

改正建設業法の施行に伴い、事業者が取るべき対応は多岐にわたります。法改正の趣旨を理解し、適切に対応することで、持続可能な建設業の実現に貢献するとともに、自社のリスク軽減にもつながります。

受注者と発注者で取るべき対応の違いを見ていきましょう。

受注者

  • 標準労務費の確認と反映:中央建設業審議会が作成する標準労務費を確認し、見積りや契約に適切に反映させましょう。社内の見積りシステムや積算基準を見直し、適正な労務費が確保できる体制を整備することが重要です。

 

  • 低すぎる見積りの是正:著しく低い金額の見積りを提出する慣行がある場合は、是正する必要があります。特に材料費等記載見積書の作成にあたっては、通常必要と認められる材料費等の額を下回らないよう注意が必要です。

 

  • リスク情報提供の仕組み構築:資材の供給不足や高騰に関するリスク情報を発注者に提供するためのフローを構築しましょう。メディアの記事や資材業者の発表など、客観的な情報を収集・分析する体制の整備が求められます。

 

  • 請負契約書の見直し:請負契約書に請負代金を変更する際の金額の算定方法が記載されているか確認し、必要に応じて追加しましょう。従来の契約書のひな形を見直し、変更協議の手続きや算定方法について明確に定めることが重要です。

 

  • 短工期での施工の是正:著しく短い工期での施工を受注する慣行がある場合は、是正する必要があります。適正な工期を確保するため、施工計画の精査や工程管理の徹底が求められます。

 

  • ICT活用の推進:現場管理においてICTを積極的に活用し、効率化を図りましょう。特に、監理技術者等の専任義務の合理化に対応するため、遠隔でのコミュニケーションツールや工事進捗管理システムなど、必要な技術的環境を整備することが重要です。

 

  • 社内研修の実施:改正内容について、特に見積りや契約に関与する社員に対して周知・教育を行いましょう。法令遵守の徹底は、処分リスクを回避するだけでなく、持続可能な事業運営の基盤となります。

発注者

  • 適正な請負代金の確保:著しく低い材料費等への変更を求めることが禁止されるため、適正な請負代金を確保する必要があります。予算策定段階から適正な材料費・労務費を見込み、必要な予算を確保することが重要です。

 

  • リスク情報への対応:受注者からのリスク情報の提供を受けた場合は、適切に対応し、必要に応じて契約変更に向けた協議に誠実に応じるよう努めましょう。資材高騰などが実際に発生した場合の対応フローを事前に検討しておくことが望ましいです。

 

  • 適正な工期の設定:著しく短い工期の設定は引き続き禁止されるため、適正な工期を設定する必要があります。工事の規模や内容、季節要因なども考慮し、現実的な工期設定を心がけましょう。

 

  • ICT活用による効率化:公共工事発注者は、ICTを活用して工事現場の施工体制を確認できる措置を講じることで、施工体制台帳の提出義務を合理化できます。電子システムの導入など、ICT活用による業務効率化を検討しましょう。



まとめ

改正建設業法は、労働者の処遇改善、資材高騰への対応、働き方改革という3つの柱を中心に建設業の持続可能性を高める施策を導入しています。標準労務費の設定や原価割れ契約の禁止、ICT活用による生産性向上などが重要なポイントです。建設業者は法改正を正しく理解し、契約書の見直しやICT活用の推進など適切な対応を早急に進めることが求められます。

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