
コラム
建設業界の人材派遣とは?人材派遣活用ルールや派遣会社の選び方

建設業界は深刻な人手不足に悩まされています。しかし、建設業の人材派遣には一般的な業界と異なる厳しいルールがあり、現場作業への派遣は原則として禁止です。一方で、事務職や施工管理といった一部の業務では派遣の活用が認められています。
本記事では、建設業界の人材派遣ルールから派遣会社の選び方まで詳しく解説します。
建設業の人材派遣ルールとは

建設業界における人材派遣は、他の業界とは大きく異なる特別なルールが設けられています。労働者派遣法によって定められた規制を理解せずに派遣を活用すると、法令違反となるため注意が必要です。
ここでは建設業の人材派遣ルールについて詳しく解説します。
原則禁止されている
建設業務における人材派遣は、労働者派遣法第4条第1項により原則禁止されています。具体的には「土木、建築その他工作物の建設、改造、保存、修理、変更、破壊若しくは解体の作業又はこれらの作業の準備の作業に係る業務」が対象です。つまり、建設現場での実際の作業に関わる業務は、派遣社員に任せることができません。
人材派遣が禁止されている理由
建設業で人材派遣が禁止される理由は2つあります。
- 労働者の安全確保
- 建設現場では元請け、下請け、孫請けなど複数の企業が関わる
- 派遣社員が加わると指揮命令系統が曖昧になる
- 労働災害のリスクが高まる
- 事故発生時の責任の所在が不明確になる
- 雇用の安定
- 建設業界は受注生産が基本で需要が不安定
- 派遣社員が「派遣切り」に遭うリスクが高い
- 労働者の雇用安定を図るため
認められるケース
建設業でも人材派遣が認められる業務があります。
建設現場での作業に直接関わらない業務、例えば事務作業やCADオペレーター、施工管理業務などです。これらの業務は「建設業務」に該当しないため、派遣社員の活用が可能です。ただし、現場作業と兼務する場合は、軽微な作業であっても派遣の利用は禁止されます。
自社で派遣する場合
派遣が禁止される建設業では、代替制度として「建設業務労働者就業機会確保事業制度」が設けられています。これは事業主団体の構成企業が、自社の労働者を同じ団体の他の企業に一時的に送り出す制度です。労働者は元の会社との雇用関係を維持しながら、送り出し先の指揮命令を受けて働きます。
この制度により、建設業界内での人材の有効活用が図られています。
建設業の人材派遣が可能な職種とは

建設業界でも、特定の職種については人材派遣の活用が認められています。これらの職種は建設現場での作業に直接従事しないため、派遣禁止業務に該当しません。企業の人材戦略において重要な選択肢となるでしょう。
ここでは派遣が可能な職種について解説します。
施工管理
施工管理業務は、建設工事の施工計画作成から工程管理、品質管理、安全管理まで幅広い管理業務を担います。現場での直接的な作業を行わないため、派遣社員の活用が可能です。労働者派遣事業関係業務取扱要領にも「建設業務に該当せず労働者派遣の対象となる」と明記されています。
ただし、派遣社員が施工管理を担当する場合、現場での軽作業も含めて一切の作業を行うことは禁止されています。
CADオペレーター・設計補助
CADオペレーターや設計補助業務は、コンピューターを使用して図面を作成し、設計をサポートする仕事です。建設現場での作業に直接関わるわけではないため、派遣社員の活用が認められています。
2次元図面の作成から3次元モデルの作成まで、高い専門性を持つ人材を必要な期間だけ柔軟に活用できる点が大きなメリットです。実際に、建設業界で派遣登録している人の約7割がCADオペレーターという実績もあります。
施工図・BIM担当者
施工図の作成やBIM(Building Information Modeling)を活用した業務も、派遣社員の活用が可能な職種です。専門的な知識とソフトウェアスキルが必要で、建設現場での作業は伴いません。3次元モデルの作成や図面の修正、データ管理などの業務を通じて、建設プロジェクトを支援します。技術の進歩とともに需要が高まっている分野でもあります。
事務・経理・積算
建設会社のオフィスや現場事務所での事務業務全般は、派遣社員の活用が認められています。電話対応、書類作成、経理処理、積算業務などが含まれます。現場事務所での業務であっても、事務作業に専念する限り問題ありません。
ただし、事務作業と現場作業を兼務する場合は、現場作業部分が軽微であっても派遣の利用は禁止されるため注意が必要です。
安全管理
安全管理業務のうち、現場での直接的な作業を伴わない管理業務については、派遣社員の活用が可能です。安全教育の企画・実施、安全書類の作成・チェック、安全パトロールの計画策定などが該当します。
ただし、現場での安全確認作業や資材の片付けなど、実際の現場作業に関わる部分は派遣禁止業務となるため、業務範囲を明確に区分する必要があります。
建設会社が人材派遣を活用する4つのメリット

建設業界において適切な人材派遣の活用は、企業にとって多くのメリットをもたらします。人手不足の解消だけでなく、コスト削減や業務効率化にも大きく貢献するでしょう。
ここでは人材派遣を活用するメリットについて解説します。
即戦力となる専門スキルを持った人材を確保できる
人材派遣では、すでに必要なスキルや経験を持つ専門人材を迅速に確保できます。CADオペレーターや施工管理など、専門性の高い業務では特に効果的です。
派遣会社が事前にスキルチェックを行っているため、現場ですぐに戦力として活用できる人材が派遣されます。資格や経験年数に応じた人材選定も可能で、プロジェクトの要求レベルに合わせた人材確保が実現できます。
採用コストや教育の手間を削減できる
正社員の採用には求人広告費、面接費用、選考にかかる人件費など多額のコストが発生します。人材派遣を活用すれば、これらの採用コストを大幅に削減できます。
また、派遣社員は既に必要なスキルを持っているため、基本的な業務研修も不要です。派遣会社が人材の選定から面接調整まで行うため、採用担当者の負担も軽減できます。
必要な期間だけ人材を補充でき、コストを最適化できる
建設業界は受注に応じて業務量が変動するため、柔軟な人材活用が重要です。人材派遣なら、プロジェクトの期間に合わせて必要な人材を確保し、終了時には契約も終了できます。
繁忙期だけの短期間活用や、特定プロジェクト期間中の長期活用など、ニーズに応じた柔軟な対応が可能です。人件費を変動費として管理できるため、経営の効率化にもつながります。
給与計算や社会保険などの労務管理負担を軽減できる
派遣社員の雇用主は派遣会社であるため、給与計算、社会保険手続き、労務管理などの事務負担は派遣会社が担います。派遣先企業は業務の指示・管理に集中でき、人事・総務部門の負担を大幅に軽減することが可能です。
有給休暇の管理や福利厚生の提供も派遣会社が行うため、労務管理に関わる複雑な手続きから解放されます。
建設業界に強い人材派遣会社の選び方5つのポイント

建設業界での人材派遣を成功させるには、適切な派遣会社選びが重要です。業界特有のニーズを理解し、質の高いサービスを提供できる派遣会社を見極める必要があります。
ここでは派遣会社選びのポイントについて解説します。
建設業界への専門性と実績は十分か
建設業界に特化した豊富な実績を持つ派遣会社を選びましょう。建設業界の業務内容や現場環境を深く理解している派遣会社なら、適切な人材マッチングが期待できます。過去の派遣実績や取引先企業数、継続契約率などを確認し、安定したサービス提供能力があるかを判断することが重要です。
特に創業から10年以上の実績がある派遣会社は、ノウハウの蓄積と信頼性の面で安心できるでしょう。
労働者派遣事業の許可番号を取得しているか
労働者派遣事業を行うには、厚生労働大臣の許可が必要です。許可番号を取得している正規の派遣会社かどうかを必ず確認しましょう。許可番号はホームページや契約書に記載されています。
無許可で派遣事業を行っている業者との契約は違法行為となるため、派遣先企業も処罰の対象となる可能性があります。安全で合法的な派遣サービスを利用するため、許可の確認は欠かせません。
希望するスキルを持つ登録者が豊富か
自社のニーズに合ったスキルを持つ登録者が十分にいるかを確認しましょう。CADオペレーターなら使用ソフトの種類、施工管理なら資格の有無や経験年数など、具体的な要件に対応できる人材の登録状況を問い合わせることが大切です。登録者数だけでなく、質の高い人材を確保できているかも重要なポイントといえます。
研修制度が充実している派遣会社は、スキルレベルの高い人材を育成している可能性が高いです。
営業担当者のフォロー体制は手厚いか
派遣期間中のフォロー体制が充実している派遣会社を選びましょう。営業担当者が定期的に派遣先を訪問し、派遣社員の状況確認や問題解決に対応できる体制があるかを確認します。
トラブル発生時の迅速な対応や、派遣社員への継続的なサポートが期待できる派遣会社なら、安心して利用できます。また、派遣先企業の要望に対する柔軟な対応力も重要な評価ポイントです。
料金体系が明確で分かりやすいか
派遣料金の内訳が明確で、理解しやすい料金体系の派遣会社を選びましょう。派遣社員の時給だけでなく、派遣会社のマージン率も公開されているかを確認します。マージン率の公開は法律で義務化されているため、透明性のある派遣会社かどうかの判断材料になります。
また、追加費用や契約変更時の料金についても事前に確認し、予算管理しやすい派遣会社を選ぶことが大切です。
人材派遣を活用する際の注意点

人材派遣を効果的に活用するためには、制度の特徴を理解し、適切な管理体制を構築する必要があります。注意すべきポイントを把握して、トラブルを未然に防ぎましょう。
指揮命令権は派遣先企業にある
派遣社員への業務指示や管理は、派遣先企業が行います。派遣会社は雇用関係を結んでいますが、実際の業務における指揮命令権は派遣先にあります。そのため、派遣社員の勤怠管理や業務進捗の把握、適切な労働環境の提供は派遣先企業の責任となります。
安全衛生教育の実施も法律で義務付けられており、派遣社員を含むすべての労働者が対象です。責任範囲を明確にして、適切な管理を行うことが重要です。
自社にノウハウが蓄積されにくい
派遣社員は契約期間が終了すると退職するため、業務のノウハウが自社に蓄積されにくいというデメリットがあります。特に専門性の高い業務を派遣社員に任せる場合、業務の属人化が起こる可能性があります。対策として、派遣期間中にマニュアルの作成や自社社員への引き継ぎを行い、知識やスキルの共有を図ることが大切です。長期的な人材戦略として、正社員採用との使い分けも検討しましょう。
派遣期間に制限がある
労働者派遣法により、同一の派遣社員を同じ職場で受け入れられる期間には制限があります。一般的には最長3年間とされており、期間を超えて継続する場合は直接雇用を検討する必要があります。
また、派遣会社との契約更新時期や終了日の管理も重要です。契約期間を適切に管理し、必要に応じて計画的な更新や代替人材の手配を行うことで、業務の継続性を確保できます。
まとめ
建設業界の人材派遣は、現場作業は禁止されているものの、事務職やCADオペレーター、施工管理業務では活用可能です。即戦力確保とコスト削減のメリットを得るには、建設業界に精通した派遣会社の選定が重要になります。許可番号や実績を確認し、適切な管理体制を構築することで人手不足解消の有効な手段となるでしょう。