
コラム
建設業でグローバルな人材が必要な理由!課題や注意点は?

日本の建設業界では、深刻な人材不足と高齢化により、グローバル人材の活用が急務となっています。国内だけでは補えない労働力を海外から受け入れることで、現場の即戦力確保と技術継承が進んでいます。
本記事では、グローバル人材が建設業界にもたらすメリットと課題について詳しく解説します。
なぜ建設業にグローバル人材が必要なのか

建設業界におけるグローバル人材の必要性は、国内の人材不足と新たなビジネス機会の拡大という2つの要因から生まれています。
主要な背景要因は以下のとおりです。
- 深刻な労働者不足と高齢化の進行
- 若手人材の建設業界離れ
- 2025年に予測される約90万人の労働力不足
- 海外展開に向けた国際的な人材ニーズ
- 技術継承の担い手不足
- グローバル化による新たなビジネス機会の拡大
少子高齢化によって若手労働者の確保が困難になる中、海外からの人材受け入れが現実的な解決策として注目されています。
建設業界が直面する人材不足と高齢化の現状
日本の建設業界では労働者の高齢化が深刻な問題となっており、55歳以上の従事者が全体の約3割を占めています。一方で29歳以下の若手は約1割にとどまっており、世代間のバランスが大きく崩れているのが現状です。
建設技能者の平均年齢は約48歳となっており、ベテラン層の大量退職が目前に迫っています。技術継承の面でも課題が山積しており、即戦力となるグローバル人材の受け入れが重要な解決手段となっているのです。
グローバル化がもたらす建設業界の新たな可能性
グローバル人材の活用によって、日本の建設業界に新たな技術や視点がもたらされています。海外の先進的な建設技術や効率的な施工方法を学ぶ機会が増えることで、国内の技術水準向上につながっています。
多様な文化的背景を持つ人材が現場に加わることで、創造性や問題解決能力の向上も期待されています。グローバル人材と共に働くことで、日本人従業員の国際感覚が養われ、より柔軟な職場環境が実現するでしょう。
建設業におけるグローバル人材の「種類」と「役割」

建設業界で活躍するグローバル人材は、技能実習生・特定技能外国人、高度外国人材、海外現地採用・駐在員の3つのカテゴリーに分類されます。
主要な人材分類と特徴は以下のとおりです。
- 技能実習生・特定技能外国人: 現場作業の即戦力として従事
- 高度外国人材(技術者・管理者): 専門知識を活用した技術・管理業務
- 海外現地採用・駐在員: 国際プロジェクトの推進役として活動
- 各カテゴリーの採用メリットと課題: 適切な選択のための比較検討
- 企業ニーズに応じた人材選定: 自社の状況に最適な人材タイプの決定
それぞれ異なる役割と特徴を持ち、建設業界の多様なニーズに対応しています。
技能実習生・特定技能外国人
技能実習生と特定技能外国人は、現場作業の即戦力として重要な役割を担っています。ベトナム、フィリピン、インドネシアなどアジア諸国出身者が多く、型枠工事、鉄筋工事、大工作業などの専門分野で活躍しています。
現在、建設業では約14万人を超える技能実習生・特定技能外国人が働いており、全体の労働者の約7%です。特に地方の建設現場では、外国人労働者が全体の3割以上を占める現場も珍しくありません。
採用メリット
技能実習生・特定技能外国人の採用により、慢性的な人手不足の解消が可能です。多くの場合、技術習得への意欲が高く、現場での作業に真摯に取り組む姿勢が評価されています。
技能習得に対する意識が高いことも大きなメリットです。日本の建設技術を学ぶために来日している場合が多く、積極的に技能向上に取り組む傾向があります。現場の活性化にもつながり、日本人従業員のモチベーション向上にも寄与しています。
課題
言語の壁によるコミュニケーション不足が重大な課題です。安全指示や作業手順の説明が十分に伝わらない場合があり、労働災害のリスクが高まる可能性があります。
文化的な違いから生じる摩擦も課題の一つです。宗教的な慣習や生活習慣の違いにより、現場での調整が必要となる場合があります。また、労働環境や待遇に関する期待値の違いから、早期離職につながるケースも見られるため、継続的なフォローが重要です。
高度外国人材(技術者・管理者)
高度外国人材は、技術者や管理者として専門性の高い業務を担当します。建築設計、構造解析、プロジェクト管理などの分野で、大学院修了レベルの知識と経験を活用しています。多くは欧米やアジアの先進国出身で、国際的なプロジェクト経験を豊富に持つ人材です。
採用メリット
高度な専門知識と国際的な経験により、プロジェクトの品質向上が期待できます。海外の先進的な建設技術や管理手法を導入することで、企業の競争力強化につながります。国際プロジェクトへの対応力も大きなメリットであり、海外展開を目指す企業にとって現地の文化や商慣行に精通した人材は不可欠な存在です。
イノベーションの促進効果も期待されます。異なる文化的背景を持つ高度人材が参画することで、従来とは異なる発想やアプローチが生まれ、技術革新や効率化につながります。また、多言語対応能力により海外クライアントとの円滑なコミュニケーションが可能となり、新規市場開拓の機会も拡大します。
課題
高い報酬水準が必要となることが主要な課題です。専門性に見合った待遇を提供する必要があり、人件費の増加は避けられません。キャリアパスの設定や昇進機会の提供など、長期的な人材戦略も求められるため、採用から定着まで継続的な投資が必要となります。
日本の商慣行や法規制への適応に時間がかかる場合があります。建築基準法や労働安全衛生法など、国内特有の規制への理解が必要となり、初期の教育コストが発生します。組織内での調整も課題となり、既存の日本人従業員との協働体制の構築や、意思決定プロセスへの組み込みなど、組織運営面での配慮が必要です。
海外現地採用・駐在員
海外現地採用・駐在員は、海外プロジェクトや国際業務において重要な役割を果たします。現地の建設市場に精通し、文化的な架け橋としての機能も担っています。現地政府機関との交渉や、地元建設会社との協力関係構築など、海外事業展開には欠かせない存在です。
採用メリット
現地市場への深い理解により、海外プロジェクトの成功確率が向上します。現地の建設業界の慣行や規制にも通じており、事業をスムーズに進められる点が強みです。さらに、現地基準での雇用により、日本から駐在員を派遣する場合と比べて人件費を抑えられるという利点もあります。
また、現地の人的ネットワークを活用することで、新規案件の獲得や協力会社の発掘がしやすくなります。これにより、事業拡大のチャンスを広げることができるのです。
課題
品質管理や安全基準の統一が主要な課題です。日本国内と同水準の品質・安全基準を海外現場で維持するためには、継続的な教育と管理が必要となります。コミュニケーション面での課題も存在し、本社との情報共有や意思疎通において時差や言語の違いが障壁となる場合があります。
企業文化の共有や価値観の統一にも時間と労力が必要です。人材の定着と育成も重要な課題であり、優秀な現地人材の確保と長期雇用の実現、継続的なスキル向上支援など、人材マネジメントの高度化が求められます。
建設業でグローバル人材を採用するための具体的なステップ

グローバル人材の採用を成功させるためには、戦略的なアプローチが必要です。
採用プロセスの主要なステップは以下のとおりです。
- 人材要件の明確化:求めるスキルと経験の詳細設定
- 受け入れ体制の整備:住環境から研修制度までの包括的準備
- 採用チャネルの戦略的選択:複数ルートの効果的活用
- 選考プロセスの設計:技能と適応性の総合評価
- 内定後サポート:ビザ取得から入社までの継続支援
- 長期的な関係構築:定着と成長を支える仕組みづくり
求める人材像の明確化から始まり、適切な採用チャネルの選定、効果的な選考プロセスの構築まで、段階的に進めることが重要です。
求める人材像と受け入れ体制の明確化
グローバル人材採用の第一歩は、自社が求める具体的な人材像を明確にすることです。技術レベル、語学能力、経験年数、専門分野などの要件を詳細に設定し、採用チーム全体で共有する必要があります。
受け入れ体制の整備も重要な要素です。住居の確保、日本語教育の提供、メンター制度の導入など、グローバル人材が安心して働ける環境を事前に準備する必要があります。社内での多文化共生に向けた意識改革や研修の実施も欠かせません。
採用チャネルの選定と活用
効果的な採用を実現するためには、複数の採用チャネルを組み合わせて活用することが重要です。人材紹介会社、技能実習制度、特定技能制度、直接採用など、それぞれの特徴を理解して最適な手段を選択する必要があります。オンライン採用プラットフォームの活用も有効です。国際的な求人サイトやソーシャルネットワークを通じて、幅広い候補者にアプローチできます。また、大学や専門学校との連携により、新卒採用の機会も拡大できます。
面接から内定まで
面接プロセスでは、候補者の日本での生活や仕事に対する意欲と理解度を確認します。長期的なキャリアビジョンや家族の状況なども考慮し、定着可能性を慎重に評価する必要があります。
内定後のフォローアップも重要な要素です。ビザ申請のサポート、住居確保の支援、入社前研修の実施など、スムーズな来日と就労開始を支援する体制を整備します。また、家族の同行がある場合には、教育機関や生活環境についての情報提供も行います。
グローバル人材が定着・活躍するための環境づくり

グローバル人材の採用後は、長期的な定着と活躍を支援する環境づくりが重要です。
定着支援の主要な取り組みは以下のとおりです。
- 異文化理解とコミュニケーション促進:双方向の理解を深める仕組み
- 生活・居住環境のサポート:日常生活の基盤整備
- 職場での育成とキャリアパス提示:成長機会の明確化
- メンタルヘルスケアと相談体制:心理的な支援システム
- 継続的なフォローアップ:定期的な状況確認と改善
- 多様性を活かす職場文化:包括的な組織運営
異文化理解の促進、生活サポート、職場での育成、メンタルヘルスケアなど、多角的なアプローチが必要となります。
異文化理解とコミュニケーションの促進
職場での円滑なコミュニケーションを実現するためには、双方向の理解促進が重要となります。グローバル人材に対する日本語教育の提供と併せて、日本人従業員に対する多文化理解研修を実施することが効果的です。
宗教的慣習や文化的背景への配慮も必要です。祈祷時間の確保、食事制限への対応など、多様性を尊重する職場環境を構築します。通訳者の配置や多言語対応マニュアルの作成により、言語の壁を下げる工夫も継続的に実施する必要があります。
生活・居住環境のサポート
グローバル人材の生活基盤を支える包括的なサポートが必要です。住居の確保から銀行口座開設、携帯電話契約、健康保険加入まで、生活に必要な手続きを一括してサポートします。
買い物や交通機関の利用方法など、日常生活に関する情報提供も重要です。地域のコミュニティとの交流機会を設けることで、孤立感の解消と地域への適応を促進します。家族同行の場合には、子どもの教育環境や配偶者の就職支援なども検討する必要があります。
職場での育成とキャリアパスの提示
グローバル人材の長期定着には、明確なキャリアパスの提示と継続的な育成が必要です。技能レベルに応じた段階的な研修プログラムを構築し、着実なスキルアップを支援します。
資格取得支援制度の導入も効果的です。建設業界で必要な各種資格の取得費用補助や勉強時間の確保により、専門性向上を促進します。メンター制度により、日本人の先輩従業員からの技術指導と文化的サポートを提供することも重要な取り組みです。
メンタルヘルスケアと相談体制の構築
文化的適応や言語的困難によるストレスに対応するため、メンタルヘルスケア体制の構築が重要です。定期的な面談による状況確認と、必要に応じたカウンセリングサービスの提供を行います。
多言語対応の相談窓口を設置し、仕事上の悩みから生活上の困りごとまで、幅広い相談に対応できる体制を整備します。同国出身者同士の交流機会の提供により、孤立感の解消とストレス軽減を図ることも効果的です。
建設業におけるグローバル人材採用の法的側面と注意点

グローバル人材の採用と雇用には、日本の法規制を遵守する必要があります。
法的要件と注意点の主要な項目は以下のとおりです。
- 外国人雇用状況届出制度:ハローワークへの必須手続き
- 労働基準法の適用:日本人と同等の労働条件保障
- 社会保険加入義務:各種保険への適切な加入
- 在留資格管理:ビザ申請と更新手続きの適正化
- 建設業特有の規制:技術者配置や安全教育の義務
- 緊急時対応体制:災害・事故時の多言語サポート
外国人雇用に関する法的要件、ビザ・在留資格の管理、適正な労働条件の設定、安全管理体制の構築など、多岐にわたる注意点があります。
外国人雇用に関する日本の法規制
外国人雇用状況届出制度により、外国人を雇用する際にはハローワークへの届出が義務付けられています。採用時と離職時の両方で手続きが必要で、違反には罰則が適用される場合があるため注意が必要です。
労働基準法の適用により、外国人労働者にも日本人と同等の労働条件を保障する必要があります。社会保険への加入も義務となっており、健康保険、厚生年金保険、雇用保険、労災保険への適切な加入手続きが必要です。建設業特有の規制として、労働安全衛生法による安全教育の実施義務があります。
ビザ・在留資格の種類と申請プロセス
建設業で働く外国人に適用される主要な在留資格には、技能実習、特定技能、技術・人文知識・国際業務、経営・管理などがあります。それぞれ異なる要件と制限があるため、適切な資格の選択と申請が重要です。
在留資格の更新手続きも重要な管理業務です。期限切れによる不法滞在を防ぐため、更新時期の管理と必要書類の準備を計画的に行う必要があります。家族滞在や永住権取得を希望する場合の支援体制も整備が必要です。
労働条件・賃金設定の適正化
外国人労働者の賃金設定では、同一労働同一賃金の原則に基づき、日本人労働者と差別のない処遇を行う必要があります。技能実習生についても、厳密な賃金基準の遵守と適正な労働時間管理が義務付けられています。
賃金控除については、法的に認められる範囲内で実施しなければなりません。寮費や食費の控除を行う場合でも、実費相当額を超えない範囲で設定することが望ましいでしょう。
また、労働契約書の作成にあたっては、母国語での説明や通訳を介した内容確認を行い、労働者本人が十分に理解したうえで契約を結ぶことが大切です。
災害時・緊急時の対応と安全管理
建設現場での安全管理において、外国人労働者に対する特別な配慮が必要です。安全教育は母国語での実施を基本とし、理解度確認のためのテストや実技確認を行います。
緊急時の対応体制では、言語対応が可能な連絡体制を構築します。災害時の避難経路や緊急連絡先は多言語で掲示し、定期的な避難訓練への参加を義務付けることが望ましいでしょう。労働災害発生時には、適切な治療の確保と労災保険の適用手続きを迅速に行う体制が重要です。
まとめ
建設業界におけるグローバル人材の活用は、深刻な人材不足解決の重要な手段となっています。技能実習生から高度専門人材まで、多様な人材の受け入れにより業界の持続的発展が期待されます。
しかし、成功のためには適切な受け入れ体制の構築と継続的な支援が不可欠です。法的要件の遵守、文化的配慮、安全管理の徹底により、グローバル人材が安心して活躍できる環境づくりが求められています。