
コラム
【BIM活用事例】成功・失敗から学ぶ導入効果とポイントを解説

建築業界でBIM導入が進む中、具体的な成功事例や失敗事例を知りたいと考える企業は少なくありません。国土交通省の推進によりBIM活用は標準化が進んでいますが、導入方法を誤ると高額な投資が無駄になるリスクもあります。この記事では、BIMの導入メリットから国内外の具体的な活用事例、よくある失敗パターンと回避策、さらに成功に導くための実践的なステップまで詳しく解説します。
この記事でわかること
- BIM導入による具体的なメリット
- 国内外の成功事例と導入効果
- よくある失敗パターンと回避策
- 導入を成功させるための実践的なステップ
BIMを導入する3つのメリット

BIM導入には大きく分けて3つのメリットがあります。
- 維持管理段階までのデータ活用が可能になる
- 関係者間の合意形成がスムーズになる
- 設計品質が向上する
設計段階だけでなく維持管理まで含めた建物のライフサイクル全体で効果を発揮する点が特徴です。
維持管理段階までのデータ活用が可能になる
BIMモデルには建物の形状だけでなく、使用材料や設備機器の仕様、メンテナンス情報といった属性データが含まれています。竣工後もBIMデータを活用すれば、設備機器の交換時期や修繕履歴を一元管理でき、維持管理業務の効率化につながります。
従来の2D図面では竣工後の情報管理が煩雑になりがちでしたが、BIMによって建物のライフサイクル全体でデータを活用できる環境が整います。長期的な資産価値の維持にも貢献するでしょう。
関係者間の合意形成がスムーズになる
3Dモデルを使った視覚的なコミュニケーションにより、発注者や施工業者との認識のずれを大幅に減らせます。2D図面では専門知識がない人には理解しにくい内容も、3Dモデルなら直感的に把握できるため、設計意図の説明や変更提案の検討がスムーズに進みます。
打ち合わせ時間の短縮だけでなく、手戻りの削減にもつながり、プロジェクト全体の効率向上に寄与します。関係者全員が同じビジュアルを共有できる点は、BIMの大きな強みといえるでしょう。
設計品質が向上する
BIMでは設計段階で構造部材と設備配管の干渉チェックを自動的に行えるため、施工段階での手戻りを防げます。3Dモデル上で事前に問題を発見し解決できるため、設計ミスによるコスト増や工期遅延のリスクが減少します。
数量の自動集計機能により積算の精度も向上し、概算コストの把握が容易になります。設計変更があった場合も自動的に数量が更新されるため、常に最新の情報に基づいた判断が可能です。
BIM導入の成功事例6選

実際にBIMを活用して成果を上げたプロジェクトを、国内外から6つ紹介します。
- 【国内】富士山世界遺産センター
- 【国内】名古屋城天守
- 【国内】新築の生産施設
- 【海外】ロンドン・クロスレール
- 【海外】上海タワー
- 【海外】サグラダ・ファミリア聖堂
それぞれの事例から導入効果や活用方法を学べます。
日本国内事例
国内では複雑な構造物の施工管理や歴史的建造物の復元、省エネ効果の分析などでBIMが活用されています。
- 富士山世界遺産センター
- 名古屋城天守
- 新築の生産施設
以下の3つの事例を詳しく見ていきましょう。
富士山世界遺産センター
静岡県の富士山世界遺産センターでは、木材を使用した複雑な3次元形状の構造設計にBIMが活用されました。打ち合わせ段階からBIMモデルを構築し、鉄骨構造と木材の干渉チェックや設備検証を実施しています。
複雑な曲線構造の木材建築では、2D図面だけでは品質低下や原価流出のリスクが高まります。BIMモデルを使うことで工程の遅延を抑制し、施工精度を確保できました。高難度の施工を成功させた代表的な事例として評価されています。
出典:建設通信新聞「【富士山世界遺産センター】木材使用の3次元形状! 高難度の施工に威力を発揮したBIM」
名古屋城天守
1612年建築の名古屋城天守の老朽化対策として、木造復元に向けた検討プロセスでBIM技術が活用されました。建築当初からの資料をもとに3Dモデルを再現し、具体的な劣化位置の分析と構造解析を実施して耐震性の確保が検討されています。
3Dモデルをベースに足場計画を立てるなど、設計検討から施工までBIM技術をワンストップで適用しました。歴史的建造物の保存と現代の建築基準への適合を両立させた事例として注目されています。
出典:林野庁「BIM を活用したデジタル施工事例集の作成事業報告書」
新築の生産施設
新築生産施設の建築プロジェクトでは、施設全体の省エネ効果を分析するためにBIM技術が活用されました。施設全体を3Dモデルで構築し、使用材料データをベースにCO2排出量を自動算出して環境配慮が計画されています。
省エネ効果をビジュアライズすることで発注者との合意形成が得やすくなり、2D図面の課題だった数量集計表のみによる省エネ判断を回避できました。3Dモデルの作成により空調設備の配置検討も効率化しています。
出典:建築BIM評価事務局「BIM を活用した建築生産・維持管理プロセス円滑化モデル事業効果検証・課題分析事例集」
海外事例
海外では大規模インフラや超高層ビル、歴史的建造物の改修などでBIMが積極的に活用されています。
- ロンドン・クロスレール
- 上海タワー
- サグラダ・ファミリア聖堂
先進的な取り組みを3つ紹介します。
ロンドン・クロスレール
ヨーロッパ最大級の鉄道インフラ計画であるロンドンのクロスレールプロジェクトでは、BIMが統合的な情報管理プラットフォームとして機能しました。総工費約240億ドルの都市鉄道建設で、60社以上の施工業者と25社の設計コンサルタントが共通データ環境上でモデルを共有しています。
プロジェクト開始当初からすべての情報を一元管理することで、設計変更や承認プロセスを円滑にし、将来の運用・保守段階でも資産情報を有効活用できる基盤を構築しました。仮想空間上で鉄道システム全体をシミュレーションすることで、施工段階でのトラブルを事前に防いでいます。
上海タワー
高さ632m、121階建ての上海タワーは、世界有数の超高層グリーンビルディングとしてBIM活用の成功例です。30を超えるコンサルタント会社や施工業者が関与し、設計から施工まで一貫してBIM上でコラボレーションが行われました。
二重外壁など最先端の省エネ技術を備えた持続可能な超高層建築を実現するため、BIMモデル上で建築、構造、設備の各チームがリアルタイムに干渉チェックと設計調整を繰り返しました。環境性能シミュレーションにもBIMデータが活用され、風環境や日射シミュレーションによって形状・ファサード設計が最適化されています。
サグラダ・ファミリア聖堂
19世紀末に着工し現在も建設が続くサグラダ・ファミリア聖堂では、BIMやデジタル技術の活用により完成に向けた歩みが加速しています。ガウディの残した石膏模型やスケッチを3Dスキャンしてデジタルデータ化し、詳細なBIMモデルを作成しました。
複雑な曲面やねじれた塔の設計を現実に建てるため、BIM上で構造解析と形状最適化を繰り返すことで、100年前のデザインコンセプトを維持しながら現代の建築基準に適合する安全な構造を実現しています。歴史的プロジェクトに現代の息吹を吹き込んだ象徴的な事例です。
BIM導入のよくある失敗事例3選と回避策

BIM導入には成功事例だけでなく、失敗から学ぶべき教訓も多くあります。
- 「とりあえず導入」で高額ソフトがお絵描きツールに
- 社内の運用ルールが未整備でデータが混乱
- 一部の担当者しか使えず「BIM疲れ」で形骸化
よくある失敗パターンと回避策を3つ紹介します。
「とりあえず導入」で高額ソフトがお絵描きツールに
BIMソフトは高額な投資が必要ですが、導入目的が不明確なまま「業界の流れだから」と導入すると、3Dパース作成ツールとしてしか使われない事態に陥ります。本来のBIMの価値である属性情報の活用や関係者間のデータ共有が行われず、投資対効果が得られません。
回避策として、導入前に「何のためにBIMを使うのか」を明確にする必要があります。設計品質の向上、施工段階での干渉チェック、維持管理での情報活用など、具体的な目的を設定しましょう。目的に応じて必要な機能や連携ツールも変わってきます。
社内の運用ルールが未整備でデータが混乱
BIMソフトを導入しても、ファイルの命名規則やレイヤー構成、属性情報の入力方法などのルールが整備されていないと、各担当者が独自の方法でデータを作成してしまいます。プロジェクトごとにデータ形式がばらばらになり、情報共有や引き継ぎが困難になります。
社内BIMガイドラインを策定し、データ作成の標準ルールを定めることが重要です。国土交通省が公開している「BIM活用ガイドライン」を参考に、自社の業務に合わせたルールを整備しましょう。運用開始後も定期的に見直しを行い、改善を続けることが大切です。
一部の担当者しか使えず「BIM疲れ」で形骸化
特定の担当者だけがBIMを使いこなせる状態では、その担当者に業務が集中し「BIM疲れ」を引き起こします。他のメンバーは従来の2D図面で作業を続けるため、BIMモデルと2D図面の二重管理が発生し、かえって業務負担が増加します。
全社的な教育体制を整え、段階的にBIMを使える人材を増やすことが必要です。まずは基本操作を学べる社内勉強会を定期開催し、外部セミナーの受講も支援しましょう。スモールスタートで小規模プロジェクトから始め、成功体験を積み重ねることで組織全体にBIMを浸透させられます。
事例から学ぶ、BIM導入を成功させるための4つのステップ

成功事例と失敗事例から導き出された、BIM導入を成功させるための実践的なステップを4段階で解説します。
- ステップ1:目的の明確化と現状分析
- ステップ2:体制構築とツール選定
- ステップ3:スモールスタートとガイドライン策定
- ステップ4:運用・教育・効果測定
計画的に進めることで、導入の成功率を高められます。
ステップ1:目的の明確化と現状分析
BIM導入の最初のステップは、何のためにBIMを使うのかを明確にすることです。設計業務の効率化、施工段階での干渉チェック、維持管理での情報活用など、具体的な目的を設定します。同時に現状の業務フローを分析し、どの工程でBIMを活用すれば効果が高いかを検討しましょう。
目的が明確になれば、必要な機能やソフトの選定基準も定まります。全社的な合意形成を図るために、経営層を含めた検討会議を開催し、投資対効果を共有することが重要です。
ステップ2:体制構築とツール選定
BIM導入の推進体制を構築し、プロジェクトリーダーを任命します。設計、施工、IT部門など関係部署から担当者を選出し、横断的なチームを組織しましょう。並行してBIMソフトの選定を進めます。
ソフト選定では、自社の業務内容や取引先との互換性、サポート体制などを総合的に判断します。主要なBIMソフトには無料体験版があるため、実際に操作して使い勝手を確認することをおすすめします。
ステップ3:スモールスタートとガイドライン策定
いきなり大規模プロジェクトで導入するのではなく、小規模な案件から始めることが成功の鍵です。試行錯誤しながらノウハウを蓄積し、問題点を洗い出します。並行して社内BIMガイドラインを策定し、データ作成の標準ルールを定めましょう。
ガイドラインには、ファイルの命名規則、レイヤー構成、属性情報の入力方法、データ共有の手順などを明記します。最初から完璧を目指さず、運用しながら改善を重ねる姿勢が大切です。
ステップ4:運用・教育・効果測定
BIM運用が軌道に乗ったら、継続的な教育と効果測定を行います。定期的な社内勉強会やスキルアップ研修を実施し、BIMを使える人材を計画的に増やしていきましょう。外部セミナーへの参加も有効です。
導入効果を定量的に測定することも重要です。設計時間の短縮率、手戻りの削減件数、コスト削減額などの指標を設定し、定期的にモニタリングします。効果が見えると、組織全体のモチベーション向上につながります。
導入すべきおすすめBIMソフト3選

BIM導入を検討する際に候補となる代表的なソフトを3つ紹介します。
- Revit
- Inventor
- Archicad
それぞれの特徴を理解して、自社に合ったツールを選びましょう。
Revit

出典:Revit
オートデスク社が開発するRevitは、意匠・構造・設備の機能を統合した総合的なBIMソフトです。国内外で高いシェアを持ち、大手ゼネコンや総合建設会社で広く採用されています。
3Dビューやレンダリング機能を備え、データはすべて連携されているため修正・変更がリアルタイムに反映されます。レンダリングソフトやツールとの連携で、パース動画作成や干渉チェックなど幅広い作業に対応できる点が強みです。
Inventor

出典:Inventor
オートデスク社のInventorは「機械設計向けの3DCAD」で、BIMモデルと設備機器データを連携させる際に活用されます。建築分野そのものではなく、設備機器・装置の詳細設計や製造業との連携が必要な案件で使われるケースが多いツールです。
設計とシミュレーションに必要なツールが集約されており、3Dプリンターとの連携による試作品検証も可能です。AutoCADやRevitなどオートデスク製品との組み合わせにより、より高度な設計業務を実現できます。
Archicad

出典:Archicad
グラフィソフト社のArchicadは、使いやすさと高い視覚化能力が特徴のBIMソフトです。国内の設計事務所で高いシェアを持ち、意匠設計を中心に幅広く利用されています。
Mac・Windows両対応で、直感的な操作性により初心者でも習得しやすい設計になっています。建物の設計から施工まで3Dモデルを用いて一貫した管理ができ、図面の自動生成やリアルタイムでの変更反映により、設計プロセスを効率化できます。
BIM導入事例に関するよくある質問(FAQ)

BIM導入を検討する際によく寄せられる質問に回答します。
- BIM導入にはどれくらいの費用がかかりますか?
- 中小企業やアトリエ事務所でもBIMを導入するメリットはありますか?
- 導入事例でよく見る「Revit」と「Archicad」はどう違いますか?
導入前の疑問を解消しましょう。
BIM導入にはどれくらいの費用がかかりますか?
BIMソフトのライセンス費用は年間40万円から60万円程度が一般的です。永久ライセンスの場合は100万円を超える製品もあります。ソフト費用に加えて、高スペックPCの導入費用や社員教育費用も必要です。
初期投資としては1人あたり100万円から200万円程度を見込んでおくとよいでしょう。国土交通省の「建築BIM加速化事業」などの補助金制度を活用すれば、導入費用の負担を軽減できます。
中小企業やアトリエ事務所でもBIMを導入するメリットはありますか?
中小規模の事務所でもBIM導入のメリットは十分にあります。発注者への提案力が向上し、3Dモデルを使った視覚的なプレゼンテーションにより受注率が高まります。設計変更への対応も効率化され、少人数でも質の高い設計業務を提供できます。
スモールスタートで小規模案件から始め、徐々に適用範囲を広げていく方法をおすすめします。クラウド型のBIMサービスを活用すれば、初期投資を抑えながら導入できます。
導入事例でよく見る「Revit」と「Archicad」はどう違いますか?
Revitは意匠・構造・設備の機能が統合された総合的なBIMソフトで、大規模プロジェクトや複数の専門分野が関わる案件に適しています。総合建設会社での採用が多く、チーム作業での情報共有に強みがあります。
Archicadは意匠設計に特化しており、直感的な操作性と高い視覚化能力が特徴です。設計事務所での採用が多く、デザイン重視のプロジェクトに向いています。自社の業務内容や取引先との互換性を考慮して選択するとよいでしょう。
まとめ:BIM導入事例を参考に「国土工営コンサルタンツ」にご相談ください
BIM導入は設計品質の向上や業務効率化に大きく貢献しますが、目的を明確にした計画的な導入が成功の鍵です。国内外の成功事例から学び、失敗パターンを回避しながら、段階的に導入を進めることが重要です。
国土工営コンサルタンツ株式会社では、各種建築プロジェクトにおけるBIM/CIM導入をトータルでサポートしています。業務スタートから納品まで寄り添う形でお手伝いいたしますので、BIM導入でお悩みの方はお気軽にご相談ください。