
コラム
グローバル人材を活かすための教育―外国人社員教育の新たな視点

近年、企業を取り巻く人材環境は大きく変化しています。
少子高齢化による労働人口の減少やグローバル化の進展に伴って、国内でも外国人社員の採用・活用が重要な戦略となっています。
こうしたなか、外国人社員をただ「受け入れる」だけでなく、「活躍してもらう」「成長してもらう」ための教育・研修が不可欠です。
本コラムでは、30人近くの外国人社員が活躍する弊社の人材担当者が「他国の文化を理解すること」「日本語を重視したトレーニング」の二つを軸に、さらに教育設計・制度整備・継続支援の観点も交えて整理します。
1.他国の文化を理解することの意義

まず、外国人社員教育の入口として「文化理解」はとても重要です。
企業内で異文化を前提とした働き方・コミュニケーションが増えているなか、文化的背景・価値観・行動様式の違いを無視してしまうと、コミュニケーションのずれ・誤解・摩擦が起こりやすく、結果として社員や組織が望んでいる効果が出にくくなります。
実際、異文化適応(“acculturation”)をテーマにした調査では、外国人高度専門人材が職場に適応するためには「学習行動・関係構築行動」が鍵であるとされており、適応支援が重要な課題となっています。
また、異文化を理解しあっていくためには、日本人と一緒に暮らしてみるということが効果的です。
弊社では、来日して間もない外国人社員に関しては1~3カ月間、人材担当の日本人社員の家に下宿させるなどして、日本文化に慣れてもらいながら、母国の文化についても話し合える時間をつくるようにしています。
最近始めた取り組みですが、外国人社員の母国語をみんなで習う時間をつくるのも、相互理解につながります。
お互いの文化を理解しあっていくためには、自国文化の“当たり前”を話し合うこともとても良く、「違い」だけではなく、「異なりながら共に働くための資源」として捉えることも重要です。
筆者個人的には、100年以上続く企業を目指す弊社として、今後のグローバル展開を見据えて、足りない日本人社員の補填ではなく、企業が発展するための必要な人材として、長い目で育成していくことが大切だと思っています。
日本人社員側も「外国人社員がなぜこういう反応・行動をとるのか」を理解することで、相互理解が深まり、より良い協働環境が築けます。
2.日本語を重視してトレーニングを実施することの重要性

文化理解と並んで、外国人社員教育で欠かせないのが「言語」、特に日本語力の支援です。
日本の企業文化・組織文化の中では、日本語がコミュニケーション・報告・会議・資料作成において非常に重要な役割を果たしています。
したがって、外国人社員が日本語で意思疎通できる環境を整えることは、彼らが力を発揮するための基盤となるのです。
外国人社員が「日本語が十分でなかった」「言いたいことを上手く伝えられなかった」「会議や書類・メール対応に時間がかかった」などの悩みを抱えると、早期離職・能力活用の滞りにつながるケースも報告されています。
言語支援の具体的な取組としては、例えば次のようなものがあります。
- 入社時からレベル別・段階別プログラムとして「日本語(日常会話)」「読み書き」「ビジネス日本語(報告・連絡・相談/会議/資料作成)」を体系的に学べる場を設ける。
- 日本語研修だけで終わらせず、実務を通じて「使える日本語」を体験してもらう。具体的には、日本語での朝礼や会議への参加。OJTでのトレーニングなど。
- 日本語学習を「義務」ではなく、日本人社員との楽しいコミュニケーションとして、朝の始業前時間に参加希望者でテーマを決めて会話したり、昼食を一緒に食べたりするなど、なるべく仕事外でも日本語での会話ができるようにする。
- 日本語だけでなく、日本特有のビジネス慣習・マナー・社内ルール(報連相、敬語、雑談・アイスブレイク、先輩後輩関係など)も併せて教育し、より実践的な言語・文化融合力を養う。
こうして言語の壁を下げることで、外国人社員はよりスムーズにチームに入り込み、自分の能力を発揮しやすくなります。企業側にも、スムーズなコミュニケーション・高い生産性・離職率の低減といったかたちで明確なメリットがあります。
3.加えるべき視点:キャリア・制度・継続支援

前述の「文化理解」「日本語トレーニング」に加えて、教育を成功させるためには、次の3つの視点も同時に整えておくことが重要です。
(1)キャリア支援と配置設計
外国人社員を「文化適応できる人材」としてのみではなく、「将来を見据えた成長軌道にある人材」として育てることが大切です。これは、配属先・教育機会・将来のビジョン共有・昇進などです。
例えば、言語・文化研修を終え、実績を積んだ後、チームリーダーやプロジェクトマネジメントのポジションにチャレンジできる機会を設けるなど、「日本語を学ぶ」「文化を理解する」から「日本語で意見を述べる・提案を行う」というステップへと成長を促します。
これが、モチベーション向上・定着促進につながります。
(2)職場環境・制度整備(インクルーシブな仕組み)
教育プログラムだけが整っても、職場環境がその変化を支えなければ十分な成果には結びつきません。
したがって、以下の制度・仕組みを推進することが有効です。
- 評価・処遇制度において、言語習得・文化適応というハードルを踏まえた上で、公平に成果が評価される仕組みを設ける。
- 相談できる相手を身近な外国人先輩社員、日本人社員など複数人設ける。入社直後から日常的に相談相手がいることで、安心して環境に馴染める。
- 定期的にフォローアップとして面談などを実施し、文化・言語・業務面での困りごとを早期に拾う仕組みを持つ。
(3)継続的な教育・研修/評価と改善
教育は「一度やって終わり」ではありません。
特に外国人社員教育は、入社直後の研修だけでなく、1年後・2年後とフォローを重ね、成長段階ごとに新たな学びを提供する必要があります。
例えば、初期段階で「日本語基礎・文化理解」を終えた後に、「日本人社員との会議で発言する」「日本語でプロジェクトをリードする」「リーダーとしてチームをまとめる」といった次の段階へのトレーニングが望まれます。
また、教育効果を測るため、参加者満足度だけでなく、業務上の成果・定着率・コミュニケーションの質・離職率などの指標を用いてモニタリングし、プログラムを改善していくことが重要です。
さらに、外国人社員自身に「自分で目標を立てる」「自己学習を続ける」ための環境(例:eラーニング、日本語自習教材、社内勉強会など)を提供すると、教育の効果が高まります。
4.教育を通じて得られる効果と企業にとってのメリット

こうした手厚い外国人社員教育を行うことで、企業側には次のようなメリットがあります。
- コミュニケーションの円滑化:文化・言語の壁が低くなることで、会議・報告・相談・チーム活動がスムーズになり、生産性が向上します。
- 社員の定着率向上:外国人社員が「この会社で成長できる」「活躍できる」と感じられる環境を整えることで、早期離職・転職を防止できます。
- 多様性・創造性の向上:文化的背景が異なる社員がいることで、異なる視点・アイデア・アプローチが生まれ、イノベーションにつながる可能性があります。
- グローバル展開・競争力の強化:国外の取引先・支店・多国籍チームとの協働において、多文化理解・言語対応力を持った社員がいることは大きな強みとなります。
- 企業ブランディング・社会的責任(ESG)視点:多様な人材を活かす企業としての姿勢は、社会からの評価も高まり、採用・取引先との関係構築にも好影響を与えます。
このように、外国人社員教育は「コスト」ではなく、企業成長のための「戦略的投資」として捉えるべきテーマです。
5.まとめ:共に働き、共に成長する職場をつくる
外国人社員教育は、もはや“オプション”ではなく、企業の成長戦略・人材戦略の必須項目です。
ここまで述べてきたように、文化理解・日本語教育をしっかりと基盤に据え、さらにキャリア支援・制度整備・継続支援といった仕組みを整えることで、真に外国人社員を活かす組織へと変革できます。
教育を通じて、外国人社員が「この会社で安心して働ける」「言語・文化・制度の壁を越えて日本人社員と協働できる」「成長実感を持ってキャリアを描ける」という環境を整えること。
それが、企業全体のコミュニケーション向上・生産性向上・多様な価値創造へとつながるのです。
そして、教育を受ける側(外国人社員)だけではなく、受け入れる側(日本人社員・管理職)も「異なる背景を持った人材と共に働く」「文化・言語・価値観の違いを乗り越え、活かしていく」というマインドを持つことが何より大切です。
教育の場だけでなく、日々の業務・チーム活動・コミュニケーションの中で「学び」「相談」「実践」「振り返り」が行われることが理想です。
最後に、教育実施にあたって改めてお伝えしたいポイントを整理します。
- 外国人社員教育を「言語・文化習得」だけで終わらせず、「活躍できる・成長できる」ための中長期視点で設計する。
- 日本語教育は必須と捉え、実務活用まで見据えたカリキュラム・実践の場を用意する。
- 日本人社員側の異文化対応力・マネジメント力を並行して強化し、組織風土を整える。
- 教育を継続的プロセスとして捉え、段階的・定期的にフォローアップや改善を行う。
- 教育実施後の効果を測定し、データに基づいて改善・最適化を図る。
人材育成に正解はありませんので、弊社も上記で書いた中でうまくできていないこともありますが、できていないことも含めて試行錯誤を繰り返しながら、少しずつ共に成長する姿勢が大事だと考えています。
こうした取り組みを通じて、企業は外国人社員を「ただ受け入れる」だけでなく、「共に働き、共に成長するパートナー」として育てることができます。多様なバックグラウンドを持つ人材が活躍することで、新たな価値創造や組織の強化につながる未来を、ぜひ共に作りましょう。